
『バーモントカレー』や『ジャワカレー』などのヒット作で、日本のカレー文化を支えてきたハウス食品。ハウス食品は、元々、香辛料を扱う薬種化学原料店として創業し、香辛料の調達・加工で培った技術と知見を基盤に、カレーを主力製品とする食品メーカーへと発展しました。
その歴史のなかで、日本の家庭で親しまれるカレー文化の礎を築いてきたと言っても過言ではないハウス食品ですが、その社内でも人一倍、熱く深い愛をもって、日本全国の食卓へカレーを届け続けるべく、職務に励む社員がいます。
それはパーソナル食品事業部でカレー製品のマーケティングを担当している岩﨑拓実さん。
これまでにカレーを食べに訪れた店の数は1500軒超。年間300食のカレーを食べたこともある、“カレーの偏愛家”の異名をもつ人物の、その愛の深さを探ってみましょう!
目次

ハウス食品株式会社 岩﨑 拓実(いわさき たくみ)
2009年ハウス食品株式会社入社。
大阪支店と関東支店、東京支店(旧東京支社)で計9年間、量販店の営業を担当したのち、食品事業部へ異動。現在はカレー製品のマーケティングを担当。営業時代から、得意先にまで手製のカレーを振る舞う、カレー愛が強すぎる社員として知られる。"カレーを食べたいときに食べられるように"体調を整えるため、ジムでのトレーニングやジョギングは欠かさない。
――ハウス食品きってのカレー好きで、社内で"カレーの偏愛家"と呼ばれることもあるという岩﨑さん。これまで食べたカレーは1500軒にものぼるそうですね。また、年間で300食近くカレーを食べたこともあるそうですが、どのようにすればそれほど食べられるのでしょうか?
岩﨑:出社しているときは社食でカレーを食べることもありますし、仕事終わりにカレーを食べて帰ることもあります。Googleマップ上で行きたいお店に緑色のピンをつけておいて、片っ端から回って、行ったら緑色を黄色のピンに変えるということをずっとやっていますね。だから僕のGoogleマップはピンだらけ。見た人に「気持ち悪い」って言われることもあります(笑)。
――1500軒以上となると行ったことのないお店を探すほうが難しくなりそうですね!
岩﨑:実は食べログに登録されているだけでも、カレーを食べられるお店は2万5000軒くらいあるんです。僕がこれまで食べたのはカレーだけで1500軒なのですが、飲食店でいうと4000軒近く行っています。それでも今行きたいとチェックしているお店が4000軒ほどあるので、お店探しで困ることは永遠に来なさそうです。胃が足りないですね(笑)。食を深く知る上では幅の広さも大事だと思っているので、カレー以外の料理もいろいろ食べに行くようにしています。お店を選ぶときは雑誌やSNSなどで探したり、人からのおすすめの店に行ってみたり、あらゆるメディアから情報収集をしています。食べログの「百名店(ユーザーから評価の高い100軒)」を参考にすることもあります。「百名店」でいうと、カレーのジャンルでは、TOKYOとEAST、WESTでそれぞれ100軒ずつ選出されているのですが、TOKYOとWESTはもう制覇しました。EASTは今、50軒くらい行きましたが、北海道の店が多いので、さすがに掲載されている全店舗を制覇するのは難しそうです。
――それでもすでに250軒は行かれているのですね!とはいえ食べログは日本国内だけですものね。岩﨑さんは海外旅行もお好きで、各国でカレーを食べていると聞きました。
岩﨑:そうですね、国の数え方はいろいろですが、いままでに71カ国に行きました。海外で食べたカレーを含めたら、1500軒どころでなく、もっと行っていますね。そのなかでも、バンコクのGaggan(ガガン)で食べたカレーは印象的でした。写真でご紹介している料理なのですが、いや、これをカレーと呼んでいいのかわからないのですが(笑)。ここの料理はすべて、メニューの要素を分解して再構成するという感じで、見た目ではそれがどんな料理なのかがわからないんです。その料理のなかで、食べてみるとたしかにカレーで、たしかにおいしいっていうのがあって…、いやこれ説明するのが難しいですね!
――かなり独創的で、エンタメ度の高いカレーのようですね。たくさんのカレーを食べてきて、現在はそうした独創的なカレーに惹かれることのほうが多いですか?
岩﨑:オーセンティックなものも独創的なものも両方とも好きなのですが、どちらかというと創意工夫が感じられる、ちょっと変わったものに惹かれますね。カレーという料理は、自由で可能性を秘めているからこそ、おもしろいと思っていて。そもそも、僕の考えるカレーは一般的なイメージよりやや広めで、基準は"スパイスを活かし、ご飯と合わせて食べる一皿"という点です。欧風カレーやインドカレーはもちろん、ビリヤニのようにカレーの境界に位置する料理も含めています。だから年間300食のカレーを食べていたときも、まったく飽きませんでした。麻婆豆腐なども僕にとっては“カレー寄りのスパイス料理”なのですが、もちろん全部まとめて無差別に扱っているわけではありませんよ。4000軒以上のお店を食べ歩いてきたなかで、カレーに限らず多様な料理のエッセンスに触れてきました。その積み重ねがインスピレーションとなり、新しいスパイスの可能性を考えるきっかけになっています。
――現在はカレー製品のマーケティングを担当されているとのことで、まさに"好き"を仕事にしている岩﨑さんですが、カレーを好きになった原点みたいなものはありますか?
岩﨑:そうですね…。困ったことに思いつかないんです。物心ついた頃から、ずっとカレーは好きで、給食のカレーも家のカレーも大好きでした。母が作るカレーは特に変わったものではなかったのですが、家で食べるなら『ジャワカレー』が好きでしたね。
そんな、カレーといえばいわゆる"日本のカレー"だったところから、一気にカレーの世界が広がったのが、大学生のときに初めて食べた本格的なインドカレーとスープカレー。今思えば何の変哲もないインドカレーだったのですが、カレーソースがサラサラしていることに衝撃を受けました。インドのカレーには普通小麦粉が入っていないんですよね。スープカレーは、いわゆる札幌のベーシックなものではなく、元祖でありつつも独自路線のお店でした。カレースープというよりもスパイス薬膳スープとでもいうべきな透明なカレーで、最初食べたときは何を食べているのか良く分からなかったです。それまで自分がイメージしていたカレーとはかけ離れたもので、それでもカレーとしておいしくて、「こんなカレーがあるのか!」と驚きました。
――そこから"カレー沼"にどっぷりハマってしまったわけですね。
岩﨑:そうですね。でも本格的に食べ歩きを始めたのは社会人になってからです。最初の勤務地が大阪だったのですが、住み始めた頃がちょうど大阪スパイスカレーが流行り出した頃で。スパイスカレーって、本場のインド料理では絶対にしないようなスパイスの使い方をしたりしていて、ほんと「なんでやねん!」って感じなんですが、その「なんでやねん!」なカレーがおいしいっていう驚きがおもしろくて、いろいろな店で食べました。そうしてどんどんハマっていって、インド料理やスパイスの本を買って勉強したり、自分で試行錯誤しながらカレーを作ったり…。
――お店で食べるだけでなく、自分で作るようにもなった、と。そのカレー愛は、ハウス食品で仕事するうえでも大きな武器になったのではないですか?
岩﨑:いやそれが、入社してすぐに営業を担当していたのですが、3年くらいは営業という仕事があまり得意ではなかったんです。でもあるとき、先輩に「それだけカレーが好きで、食べているんだから、それをもっと堂々と仕事に活かせよ」と言われたんです。それからは"カレー愛が強すぎる営業"にキャラ変して、バイヤーさんを家に招いたり、先方のご自宅に伺ってカレーを作って食べてもらったりしていました。新製品プレゼンのために訪問した得意先で、商談の最後に「最近のオリジナルレシピです」って新製品とまったく関係のない手製カレーを試食していただいたこともあります(笑)。
――そ、それはかなり振り切った営業スタイルですね!
岩﨑:営業成績もある程度上がりましたし、得意先にはおもしろがってもらえて、僕のことを覚えていただけたので、キャラ変の効果はあったかなと思います。好きなものを活かせたことで自信をもつこともできたかな。上司や同僚、バイヤーさんや問屋さんを、多いときは月イチで自宅に招いて、カレーを振る舞ったりしていました。関東支店に勤めていたときは、支店長のご指名で、全体会議でカレーについて講義させていただく機会もあったんですよ。そんな、ある意味"社内営業"の効果もあって、いまは大好きなカレー製品のマーケティング部門に就くことができました。
――社内外の様々な場面でカレーを振る舞っているとのことですが、料理の腕はいつからどのようにして磨いてこられたのでしょうか。
岩﨑:大阪に住んでいた頃は、レシピ本を見て、ひたすら自分で試して、という感じでした。大阪から関東支店のある埼玉に転勤になることを、当時よく行っていたカレー屋さんに話したら、「埼玉だったら、ここのカレーがおいしい」と紹介してもらって。そのお店に行って、店主と話しているうちに香取薫先生のスパイス料理教室にたどり着いて、通うようになったんです。実は、香取先生の料理教室はハウス食品本社や研究所ともつながりが深くて、社員であれば会社を通して通うことができたのですが、当時はそのことを知らず、僕は自力でたどり着いて通っていました。香取先生の料理教室のほかにも、いろいろな料理教室に通ったり、カレーの勉強会などにも参加したりしましたね。
――では料理教室で習ったメニューを実際に作ってみて、招いた方々に振る舞ったりも?
岩﨑:はい、最近は振る舞う機会が減ってしまっているのですが…。季節の食材に合わせて、メニューを考えたりするのもすごく楽しいですし、食べてくれた人たちのリアクションが見られるのがうれしいですね。
――通っていたカレー店から料理教室にたどり着いて、知識を深め、カレーへの愛もさらに深め、またその楽しさを周りにも伝えていく。カレーを介して人の輪も広がっているような感じですね。
岩﨑:人の輪という意味では、『ミシュランガイド』にも掲載された「ビリヤニ大澤」のオーナーシェフ・大澤孝将さんとの出会いは、僕にとって大きかったと思います。大澤さん主宰のシェアハウス「ビリヤニハウス」にエントリーして、そこで食べたビリヤニのおいしさに衝撃を受けてからの付き合いになるのですが、一度だけイベントで調理補助をやらせてもらったこともあります。朝から晩まで大きな鍋でビリヤニを炊いて、120人前を作ったんですよ。
――岩﨑さんはきっと、いろいろなところでビリヤニを食べていると思いますが、大澤さんのビリヤニはやはり、ほかの店のビリヤニとは違いますか?
岩﨑:なにもかも違います。いくらでも食べられるんですよ。日本人が食べてもインド人が食べてもおいしいビリヤニですね。大澤さんの、誰が食べても本能的においしいものをめざして突き抜けているところ、かっこいいなと思います。でも、ビリヤニをカレーって言ったら大澤さんに怒られます(笑)。刺身定食と寿司が違うように、カレーとビリヤニは別物という考え方もあるんですよ。
――料理教室にも通われて、大澤さんのビリヤニのアシスタントもされて、カレーに対しての間口がとても広いですね!食べるだけでなく調理経験も豊富な岩﨑さんですが、最近はどんなカレーを作っていますか?
岩﨑:和食や中華料理をカレーに仕立てるのが好きですね。例えば、麻婆豆腐や回鍋肉に中華料理では使わないスパイスを加えてカレーにしたり。実際に麻婆カレーをウリにしているお店もあるほどありがちな手法ですが。和食だと、ウナギの蒲焼きやアジのなめろう、豚汁…いろいろな料理をカレーにできますよ。ちなみに今日は、僕のおすすめレシピ「ブリ大根カレー」を作るので、ぜひ食べてみてください!
――ブリ大根カレー!?見たことも食べたこともないです!カレー仕立てにする、というのは具体的にどういう調理になるのですか?
岩﨑:カレーに限らず、調理で大切なのは塩分濃度だと考えているのですが、そこを調整して、スパイスと玉ねぎやトマトなどから作ったカレーペーストを加えるんです。ブリ大根であれば、基本的なブリ大根のレシピをベースに、カレーペーストと合わせることを考えて醤油の塩分濃度を調整していくような作り方をします。
岩﨑さんオリジナルのブリ大根カレーのレシピはnoteで詳しく紹介しています!
【note】ハウス食品きってのカレー愛好家!カレーは、学びに満ちた"終わりのない旅"
――な、なるほど。では、バターチキンカレーのような定番はあまり作らないのでしょうか?
岩﨑:作りますよ!作るんですが、やっぱり誰かに食べてもらって、「おいしい!」と喜んでもらいたいっていうのが僕のなかでは大切で。おいしさをめざす方向性は、オーセンティックなレシピを突き詰めていく方向と、オリジナルなレシピで驚かせる方向と2つあると思うんです。僕はプロの料理人ではないので、オーセンティックな方向には限界があるし、めざすならば後者。いろいろな料理をカレーに魔改造する方向であれば、食べた人には「え、これがカレー?」「こんなカレーがあったのか!」と驚きとともに喜んでもらえるのかなと考えています。
――その魔改造カレーを作るときの、譲れないマイルールみたいなものはありますか?
岩﨑:ないですね(笑)。こだわりすぎないのが僕のこだわりです。スパイスの調合も大事なんですが、この配合じゃなきゃだめということではないです。配合が少しくらい雑でも、カレーはちゃんとおいしくなりますから。強いて言うなら、カレーのベースを作るための炒める工程が大事だと思っています。作りたいメニューのできあがりをイメージして、ホールスパイスとパウダースパイスの香りをしっかりと立たせること、玉ねぎやトマト、ニンニク、ショウガなどに適切に火を通すこと、ですね。
――では、自分がカレーを食べるときのマイルールは?
岩﨑:否定しないこと。もちろん好みはあるので、好き嫌いでは評価するのですが、例えば「インドではそんな食べ方はしない」、「スパイスの使い方が間違っている」なんて言うことはないですね。あれもカレー、これもカレー、みんな違ってみんないい、みたいな。カレーもいろいろですが、そもそもインドの食文化も一括りにはできないですよね。海外へ行くと、食文化に触れることで気候とか宗教とか、バックグラウンドの違いを感じられて、それがまたおもしろいんですよ。
――食文化から感じるバックグラウンドの違いとは、具体的にどんなことでしょうか?
岩﨑:印象的だったのはスリランカで食べたカレーです。日本から香取先生が執筆されたスリランカ料理の本を持って行って、現地の人たちに見せたり、泊めてくださった家のお母さんにカレーの作り方を教えてもらったり、食を通じて人とつながる、忘れられない旅でした。いろいろと思い出深い旅だったのですが、そんななかで、強く記憶に残っていることがあります。…ぬるかったんですよ、カレーが。
カレーと言えば熱いものを想像するじゃないですか。でも、スリランカの伝統医療であるアーユルヴェーダでは、熱すぎるものも冷たすぎるものも体に良くないと考えられています。そのため、カレーはあえて少し冷ましてから食べるのが普通なんだそうです。しかも現地ではスプーンではなく手で食べます。だからこそ、なおさら熱々ではなく、ぬるいくらいでないと食べられません。カレーという一皿から、味だけでなく、スリランカの暮らしや考え方まで伝わってきた気がしました。
――ぬるいカレーですか。熱々のほうがおいしそうですが。
岩﨑:僕も熱々のほうが好きですけどね(笑)。ただやっぱり、自分の好みと良し悪しは分けて判断しないといけないと思うんです。特に旅では、そうしたバックグラウンドの違いを楽しみたいです。僕は好奇心が強くて、知らないことを知るのがすごく好きなので、宗教や文化に興味をもって、旅行先を選ぶことが多いですね。例えばコソボやセルビアなどの旧ユーゴスラビアの国々とか。ガザ地区の軍事衝突が始まる前のイスラエルとパレスチナにも行きました。2025年はヨーロッパを回ることが多かったですね。2026年は、正月休みを利用して、まずエジプトから入り、中東諸国を経由してインドを訪れました。実はインドでは「ビリヤニ大澤」の大澤さんと合流してビリヤニを食べ歩いたんですよ!
――そして食文化の違う国でまた、新しいカレーと出会うわけですね。そんな岩﨑さんにとって、ずばり、カレーとは何ですか?
岩﨑:難しい質問ですね!何を言ってもカッコつけた感じになりそう(笑)。僕にとってカレーとは、「終わりのない旅」みたいなものです。自分好みのおいしさを探求しつづけたいですし、もちろん文化の違いからくる食べ方や、他の人が感じる「おいしい」も否定したくないです。食べるたびに発見があって、学ぶことがたくさんあるので。いまも、まだまだ学び足りない。終わりがないですね。
子どもの頃から食べ慣れた日本のカレーも、インドカレーも欧風カレーもスープカレーも、ビリヤニも魔改造カレーも。すべてを溶かし込んだカレー沼にハマりきっている岩﨑さんは、文化の違い・人それぞれの好みを「否定しない」をモットーとする、その沼よりも深い懐をもつ人物でもありました。
旅先で食べたあのエスニック料理を再現したい、鍋に残った煮物を魔改造カレーにしたい。
記事を読んでそんな気分になってしまった皆さま、どうぞハウス食品のカレー製品やスパイス製品をそのワクワクするような挑戦にお役立てください!
取材日:2026年1月
内容、所属等は取材時のものです
文:吉田けい
写真:木村雅章
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ
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