スパイスに込めた想いを未来へ―ハウスのスパイスマスター

スパイスに込めた想いを未来へ―ハウスのスパイスマスター

香辛料を扱う薬種化学原料店として1913年に創業してから、カレーやシチュー、さらには『ウコンの力』など、スパイスに関連する数多くの商品を生み出してきたハウス食品。

世界中から集められたスパイスがもたらす食の豊かさを広めるため、様々な取り組みを行っています。そのひとつが、社内資格である「スパイスマスター」。

スパイスの知識や使い方を広めるために、あるときは料理学校で、あるときはこども食堂で…、多種多様な場所や企画で活動しているスパイスの専門家です。今回は、そんなスパイスマスターの堀井志郎さんと山本雄大さんに、日々の活動について伺いました。

ハウス食品グループ本社株式会社 堀井 志郎(ほりい しろう)

ハウス食品グループ本社株式会社 堀井 志郎(ほりい しろう)

1987年ハウス食品工業株式会社(現・ハウス食品株式会社)入社。北海道や新潟、長野などで営業を担当したのち、東京本社や仙台などで営業支援に従事する。広報・IR部(当時広報・IR室)、営業本部などを経て、2025年現在は再び広報・IR部でスパイスの普及拡大をめざした広報活動を担当している。スパイスの歴史に深い魅力を感じ、その奥深さや物語に心を惹かれて歩み続けたという、初代スパイスマスター。

ハウス食品株式会社 山本 雄大(やまもと ゆうた)

ハウス食品株式会社 山本 雄大(やまもと ゆうた)

2021年ハウス食品株式会社入社。スパイスの研究開発を担当し、おもに自社製品のカレーパウダーの生産課題の解決に取り組む。2025年からは『スパイスクッキング』をはじめとするシーズニングの開発を担当。次世代のスパイスマスターとして活躍中。初心を忘れずに常日頃からスパイスについて探究し続ける。やわらかな物腰からは想像できないほど、スパイスを推していく姿勢は力強い。

スパイスマスターの仕事とはどんなもの?

スパイスマスターの仕事とはどんなもの?

――ハウス食品の社内資格である「スパイスマスター」とは、そもそもどんな資格なのでしょうか?立ち上げの頃をご存じだという堀井さん、教えてください。
堀井:2005年だったと思います。ハウス食品が『GABAN®︎』家庭用スパイスの販売をスタートする際に、スパイス市場に新しいブランドを売り込んでいくために、責任をもってその良さを語れる人が必要だということで、スパイスマスター制度が立ち上がりました。
私は、その最初のスパイスマスター16人のうちのひとりです。「『GABAN®』のスパイスは絶対に売れる」という確信もありましたし、「自分たちが売らなければ」という使命感もありました。

――それほど『GABAN®』に対して、会社として力を注いでいたということですね。ハウス食品の社員であれば、誰でもスパイスマスターの資格を取得できるのでしょうか?
山本:はい、取得可能です。まずはあらゆるスパイスについて、何科の植物であるか、どんな料理に合うかなど、基本的な知識を身につけます。そしてさらに、産地ではどのように栽培されていて、ハウス食品の工場ではどのように加工しているのかということまでを学びます。
そうした知識学習や料理学習、現場体験学習などの養成トレーニングを受け、最終的には筆記テストと実技テストに合格して、ようやくスパイスマスターになれます。実技テストには、会社役員の前でスパイスのプレゼンをするという課題もあります。

スパイスマスターの仕事とはどんなもの?

――それは難易度が高そうですね!ではスパイスマスターになると、どんなことができるようになるのでしょう?
堀井:おもな活動としては、全国各地で行われる「スパイスカレッジ」の講師ができるようになります。スパイスカレッジは、20代から50代のお客様をはじめ、食品スーパーや流通各社を対象とした、スパイスの知識や使い方を深めていただくためのセミナーです。

山本:そのほか「スパイスカレッジ」というかたち以外にも、企業や行政など様々な団体からのリクエストにより、スパイスを使ったイベントを開催するなどして社会課題の解決に向けて取り組むことがあります。

堀井:ハウス食品には営業職や広報職、研究職など、得意分野がそれぞれ異なるスパイスマスターがいるので、先方のリクエスト内容に合わせて、どの部署のスパイスマスターがどう対応するのかを判断しているんですよ。

追究していくなかで知った、スパイスの魅力

追究していくなかで知った、スパイスの魅力

――山本さんは3年、堀井さんはもう20年もの間、スパイスマスターとしての活動を続けていらっしゃいますが、お二人が考えるスパイスの魅力とはなにか、教えてください。
堀井:小難しいことなんてなくて、スパイスはとにかくおもしろいんです。スパイスと料理の組み合わせも、「これとこれ」という答えがないから、どんどん自分で新しいものを生み出せるところも魅力ですよね。

山本:組み合わせてこそ力を発揮する、という感じですよね。「これがこのスパイスの味わいです」と、料理のなかでわかりやすく際立つというよりも、肉の臭みを抑えたり、逆に風味を引き立てたり、縁の下の力持ちのような役割を果たせるのが、スパイスのおもしろさだと思います。

――組み合わせ次第で料理の可能性を自由に広げられる食材と言えますね。
堀井:そしてなにより、スパイスから世界を知ることができるのが楽しいです。唐辛子ひとつとっても、15世紀にアメリカ大陸でコロンブスが発見してスペインに持ち帰って…という歴史があります。私にとっては、そうした世界の文化に触れられることが一番の魅力ですね。

追究していくなかで知った、スパイスの魅力

山本:その点については、僕も魅力を感じています!入社後に産地まで視察に行き、産業としても食文化としても、スパイスが生活に根付いている現地の様子を体感した後、そのスパイスが日本の食卓に届いていると思うと、すごく感動しました。いろいろなスパイスをミックスしているカレーは、お皿の中に世界中の食材が入っていて、本当におもしろい料理だと思います。

――そんなお二人に、おすすめのスパイスを教えていただきたいです。
山本:僕は、ソルティグリーンペパーをおすすめします。とんかつとか、こってりとした揚げ物にのせて食べると、グリーンペッパーならではの爽やかな風味がプラスされて、箸が止まらなくなりますよ。このカリッとした食感も好きです。

追究していくなかで知った、スパイスの魅力

堀井:私のいち押しはピンクペッパーです。手軽に使えることが、スパイスにとって重要だと考えているので、料理の上に少し散らすだけで、風味も良くなってビジュアルも良くなるピンクペッパーは、本当に使いやすいスパイスだと思います。

――堀井さんが講師を務めるセミナーでは、ウェルカムドリンクとしてチャイが登場するそうですね。
堀井:とっても簡単に作れるレシピがあるんです。市販のミルクティーを鍋に入れて、だしパックに入れたシナモンスティックとクローブとカルダモンを加えて、沸騰直前まで加熱するだけ。「一流シェフが淹れたチャイです」と言ったら信じてしまうほど、おいしいチャイがすぐ作れます!だしパックを使うので洗い物も少なくて済みますよ。

追究していくなかで知った、スパイスの魅力

次世代のスパイスマスターが活躍できる場を

次世代のスパイスマスターが活躍できる場を

――スパイスマスターとしての活動は、ほかにどんなことがありますか?
山本:そうですね、僕が所属している開発研究所は千葉県四街道市にあるのですが、在日アフガニスタン人の方々が多く住んでいるんです。そこで、地域の方とアフガニスタンの方が交流できる方法はないかと市から相談を受けて、2025年2月にアフガニスタンの方からスパイス料理を学ぶイベントを開催しました。

堀井:私は3月に、東京都西東京市にある「多摩六都科学館」で親子を対象にしたセミナーを行いました。“MYカレー粉”を作ってテイスティングをしたり、楽しんでいただけたと思います。
こうしたイベントではスパイスマスターが考案したレシピを教えることが多いのですが、特に、開発研究所のスパイスマスターのレシピは、すごく簡単なのに、とってもおいしいので評判なんですよ。

――開発研究所のスパイスマスターのレシピも、確かに気になりますね。例えば、どんなイベントで研究所のレシピが活用されましたか?
山本:認定NPO法人 全国こども食堂支援センター・むすびえ からの依頼で、高齢者の活躍機会を作るため、仕事をリタイアされた参加者の方々にスパイスカレーの作り方を覚えていただいて、実際に作っていただき、子どもたちに食べてもらいました。
子どもたちが「おいしい!」と食べている姿を見たときの、皆さんのうれしそうな表情がとても印象的でした。スパイスカレーは、初めて作っても失敗しないようにハウス食品のルウ製品をベースに作りました。製品を通じて、参加者の方々が「自分で作ったものが誰かに喜んでもらえる」という体験をするお手伝いができ、一社員としてとても誇らしく思いました。

堀井:山本さんをはじめとする次世代のスパイスマスターたちの活動を見ていると、私はもう引退してもいいかなって思うんです。スパイスマスターの仕事は楽しいので、続けたい気持ちはあるのですが、私がずっとやっていてはいけないという気持ちもあって。これからは、彼らが活躍できる場を作っていきたいと思っています。

次世代のスパイスマスターが活躍できる場を

――では改めてお伺いしたいのですが、山本さんにとって堀井さんはどんな存在ですか?また堀井さんは山本さんにどんな活躍を期待していますか?
山本:堀井さんはやはりスパイスマスターのレジェンド的存在ですね。スパイスの話題の引き出しの数が圧倒的に多いんです。セミナーの導入でも、スパイスに関する歌や落語を紹介することもあって、すごく奥が深いんですよ。だからこそセミナーが終わった後は、お客様に「ちょっと帰りにスパイスを買ってみようかな」と思っていただけるんだと思います。いつも勉強させていただき、ありがとうございます!

堀井:山本さんは、今のままでいてほしいと思います。このままどんどん経験を積み上げていって、後は自分らしいオリジナルな演出にトライしてほしいです。スパイスに失敗はない。魔法の食材ですからね。“山本ワールド”を作り上げて、唯一無二のスパイスマスターになってほしいですね。

知るほどに深まる、スパイスのおもしろさ

知るほどに深まる、スパイスのおもしろさ

――それでは最後に、お二人の今後について教えてください。
山本:僕の目標は、もっともっと気軽に、たくさんの人にスパイスを使っていただけるようにしたいということです。企画担当者と開発担当者が協力して、アイデアを形にして、それを調達の担当者が世界中からスパイスを集めてきて、工場で安定した品質の製品を作って、営業担当が全国のお客様に届ける…という一連の流れを、仕事を通じて知った今、自分たちが作っているスパイスの魅力がリアルに感じられるんです。
だからこそ、その魅力を日本の家庭に届けられるスパイスマスターになりたいと思っています。

堀井:私の今後の役割としては、次世代のスパイスマスターたちが活躍できる場を作っていくことだと思っています。自分が引退した後、安心して任せられるようにしたいなと。
今もちょうど、農林水産省と一緒に、食育の一環として地産地消とスパイスの企画を進めているのですが、そうした広く一般の方々に向けたセミナーもこれから増やしていって、スパイスマスターたちの力を発揮できる機会を広げたいですね。

――堀井さんが引退されることを思うと、とても残念ですが…。
堀井:引退するかしないかは置いておいて、スパイスマスターとして伝えなくてはならないことはまだまだあると思っています。例えば、わさび。日本を代表するスパイス&ハーブです。飛鳥時代から栽培されていたと言われる伝統的なものであり、わさびを乾燥させて粉末にして、持ち運びを可能にした粉わさびは、日本の食文化において大発明です。しかし今、日本人はあまりわさびを食べなくなっていると聞きます。もったいないですよね。
奈良の正倉院には胡椒やクローブなどが保管されていたとか、古代エジプトではミイラの防腐剤としてシナモンが使われていたとか、スパイスの歴史はとっても深いんです。そうした歴史と文化から見るスパイスのおもしろさを、今後はもっと伝えていきたいです。

知るほどに深まる、スパイスのおもしろさ

スパイスマスターのお二人から話を聞けば聞くほど、もっと知りたい、ちょっと使ってみようかなと、スパイスの魅力に引き込まれてしまいます。

ハウス食品のスパイスは、いつもの料理により良い味わいや香り、ビジュアルをプラスしてくれるだけではありません。スパイスを使った料理を前に、その歴史に想いを馳せてみたり、その文化を食卓で語り合ってみたりすると、日々の食事はさらに笑顔に満ちた時間になるはずです。


【クレジット】
取材日:2025年6月
内容、所属等は取材時のものです

▶GABAN®の想い|ハウスギャバン株式会社
https://www.housegaban.com/omoi/

▶スパイスオブライフ
https://www.h-spice.jp/

文:吉田けい
写真:小池彩子
編集:株式会社アーク・コミュニケーションズ


コラム:東京ディズニーシー®のスペシャルイベントでも!?

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“お客様を笑顔にしたい”という想いから、東京ディズニーランド®︎と東京ディズニーシーのオフィシャルスポンサーを務めるハウス食品グループ本社。

2025年6月には、スペシャルイベント「東京ディズニーシー・フード&ワイン・フェスティバル」において実施された「スパイスプログラム」を協賛し、スパイスの専門家としてスパイスマスターの堀井さんと山本さんがそれぞれ登場しました。

コラム:東京ディズニーシー®のスペシャルイベントでも!?

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――『GABAN®』のスパイスを自分でミックスして、東京ディズニーリゾート®︎ならではのカレーやチュロスにトッピングして味の変化を楽しむなど、驚きと発見に満ちたプログラムだったそうですね。
山本:はい。ご家庭で使ったことがなかったスパイスも、親しみのある東京ディズニーシーのパークフードと一緒に楽しむことで、身近に感じていただけたのかなと思います。

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堀井:これとこれをミックスすると、こんな味になるんだというのを知っていただいて、ご家庭でも気軽にやってみたいと思っていただけるように心がけました。参加したゲストの方々には大変喜んでいただけたようで、私もうれしいです。

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――堀井さんから見て、山本さんのトークはいかがでしたか?
堀井:いつもニコニコしていて優しい雰囲気なんですが、参加したゲストの皆さまの前でスパイスのことを話し始めると、その雰囲気のまま堂々とした口調になるんですよ。きっと、普段から誠実にスパイスと向き合い、常に知見を深め続けていて、自分の仕事に対して自信があるからなのだと思います。

山本:ありがとうございます。スパイスのことを話すのが楽しいんですよ。僕は普段、お客様と接する機会が少ないので、リアクションを目の前で見ることができるプログラムやセミナーは、とても貴重なんです。

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――お二人は、お客様の前でスパイスについて話すことを楽しんでいらっしゃるんですね。
堀井:話しながら参加したゲストの皆さまの良い反応を引き出していくことで、自分もどんどん高揚していくんです。毎回、アドレナリンがものすごく出るせいか、話した後は疲れてしまうこともあるんですが、必ず「あぁ、楽しかったなぁ」って思えます。

山本:参加したゲストの方々がスパイスの香りの変化に気づいたときの「あっ」という表情が見られると、本当にうれしいですよね。

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※ハウス食品グループ本社は、東京ディズニーシーのオフィシャルスポンサーとして「東京ディズニーシー・フード&ワイン・フェスティバル」の「スパイスプログラム」に協賛しています。

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