油脂中の新規リスク物質の分析法開発

油脂中の新規リスク物質3-MCPDEs及びGEsの分析法開発

3-クロロ-1,2-プロパンジオール脂肪酸エステル類(3-MCPDEs)及びグリシドール脂肪酸エステル類(GEs)は、食用油脂の精製工程にて生成する新規リスク物質として、2007-2009年に報告された物質です。当時、これらの物質を正確に定量できる分析法が存在しなかったため、国内外の複数機関が分析法の開発に取り組みました。ハウス食品グループも原材料及び製品の品質保証のため、分析法開発に着手しました。

3-MCPDEsとGEsは分子構造の共通の骨格に結合する脂肪酸の種類、位置、数(図1の赤丸部分)の違いにより、それぞれ数十種類存在します。これらを簡便に分析するためには、数十種類の“3-MCPDEs、GEs”を共通の骨格である“3-MCPD、グリシドール”へと分解する必要がありました。一般的な分解手法であるpH(アルカリ、酸)変化を用いた場合、化学構造が似ている3-MCPDEsとGEs間の意図しない変換(3-MCPDEs ⇔ GEs)が容易に生じ、正確に定量できません。

そこで、分解中の意図しない変換を防ぐという課題に対し、食品の加工・製造にも使用されるリパーゼ(酵素の一種)に着目し、pH変化なしで3-MCPDEsとGEsを穏やかに加水分解する手法を取り入れた分析法を確立しました。同時期にユニリーバらが報告した米国油化学会(AOCS)の公定法では分解に16時間を要するのに対し、本法の分解は0.5時間と迅速に完了し、操作も簡便であるという利点を有します。

油脂中の新規リスク物質3-MCPDEs及びGEsの分析法開発

国内外の公定法への収載

開発した分析法を広く食品・分析業界で活用していただくため、複数機関による分析法の性能評価試験を実施しました。国内13機関にご協力いただいた結果、十分な性能を有することが認められ、日本油化学会(JOCS)が制定する基準油脂分析試験法の基準法2.4.14-2016及び奨7-2017として登録されました。さらに2019年には、米国に拠点を置く、油脂、界面活性剤等に関する国際的な専門組織AOCSが制定する公定法に、Joint JOCS/AOCS Official method Cd29d-19、Recommended Practice Cd29e19として登録されました。

国内外の公定法への収載

本研究成果は、社内外の多くの方々のご協力・ご支援のおかげで2018年度の日本油化学会の工業技術賞を受賞しました。

本研究成果は、社内外の多くの方々のご協力・ご支援のおかげで2018年度の日本油化学会の工業技術賞を受賞しました。

本分析法の活用

2017年には「農林水産省 平成29年度 安全な農林水産物安定供給のためのレギュラトリーサイエンス研究委託事業」の枠組みで「油脂を用いた加熱調理が、食材中の3-MCPD脂肪酸エステル類及びグリシドール脂肪酸エステル類の生成に及ぼす影響を把握するための分析法の開発」を受託しました。この研究では、①日本に流通する加工食品中の3-MCPDEs、GEs分析法の開発、②加熱調理における3-MCPDEs、GEsの動態及び影響を及ぼす要因の把握を行いました。
2018年には国際協力機構主催のタイ国別研修「水産製品における食品添加物及び汚染物質に関する検査方法」において、タイ国水産局に本分析法を導入するため、技術指導を実施しました。

お客様に安全な食品をお届けできるよう、今後も私たちは食の安全に関する研究に取り組んでいきます。