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宇宙飛行士は辛いのが好き!?ハウス食品グループのカレーは国民食から宇宙食へ

宇宙飛行士は辛いのが好き!?ハウス食品グループのカレーは国民食から宇宙食へ

一晩寝かすどころか6年かけて作った「SPACE CURRY(スペースカレー)」は、味と栄養を考え、パウチにも工夫を凝らした宇宙飛行士専用の逸品です。種類はポーク、ビーフ、チキン、イベリコ豚の4種類。その一部は現在、市販もされています。「SPACE CURRY」の開発に携わったサンハウス食品の小笠原取締役工場長に、その誕生秘話について伺いました。

小笠原徹哉

小笠原徹哉

サンハウス食品株式会社取締役工場長
1970年の創立以来、レトルト食品製造を行うサンハウス食品に勤務し、長年「フルーチェ」や「カレーマルシェ」などの製品の生産に携わる。2013年から取締役工場長を務める。“日本一の品質を作る”をスローガンとするハウス食品グループの一員として食品安全マネジメントシステムの国際規格であるFSSC22000の取得などにも積極的に取り組み実現してきた。

2002年始動!宇宙日本食計画

上が市販品、下が実際に宇宙へ持っていく製品
上が市販品、下が実際に宇宙へ持っていく製品

「故郷の味を食べたいな」と不意に思うのは宇宙でも同じ。ISS(国際宇宙ステーション)の食事は1日3回の食事とおやつ(朝、昼、夕、スナック)。メニューは10日ごとに入れ替わり、アメリカとロシアが半々の割合で共有します。このため洋食が中心になります。

宇宙開拓初期は一口サイズの固形食や、離乳食のようなチューブに入ったクリームやゼリーでした。つまり安全だけれど味気ない。それが現在では、水やお湯で戻す加水食品(スクランブルエッグ、スープなど)や、そのまま食べられるレトルト食品(ハム、ソーセージ、フルーツなど)が食べられます。とはいえやはり洋食が中心になります。

こうした背景があるなかで、緊張が続く閉鎖空間の狭い船内で高度な仕事をする日本人宇宙飛行士に少しでも良い環境を提供したい。そう考えたJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)は宇宙日本食の開発を決め、委託を受けたハウス食品グループと日本食品科学工学会が連携して宇宙カレーを作り始めたのが2002年のことです。

「いやー、宇宙でしょ。最初はびっくりしましたよ!宇宙食と言われても何せわからないことだらけですから、宇宙がどんな空間かっていうところから調査を始めたわけです。最初はすべてが手探りでしたね」(小笠原)

宇宙では辛さが足りないと満足感に影響する

宇宙では辛さが足りないと満足感に影響する

開発研究所のチームはまずどんな味にするべきかを考え始めました。目を付けたのが「ククレカレー中辛」。まさに日本の国民食。これをJAXAの前身(宇宙開発事業団)がロケット開発を行っていたクリスマス島(太平洋の赤道直下の島)の実験施設に持っていきました。24時間にわたり閉鎖環境で過ごす職員を対象に嗜好試験を行うためです。

「もっとカレーのスパイシーさを強く辛くし、味を濃くしてほしい、という改良の要望が出たんです。「ククレカレー中辛」の辛味順位2のようなマイルドな風味は、緊張が続く閉鎖環境では物足りないと感じられたわけですね」(小笠原)
※ハウス食品グループは独自に辛味レベルを5段階で設定しており、数字が上がるほど辛くなる。
※「バーモントカレー甘口」が辛味順位1

宇宙では無重力の影響で、味覚と嗅覚が鈍くなると考えられています。そのことも考慮し、スパイスの辛さ、刺激を強めた方が好まれると仮説を立て、宇宙カレーの風味設計を始めることになりました。

調整を重ねてたどりついたのが、ウコンを含めたスパイスを多めに配合し、辛味順位を4とする濃い味。同時に無重力での飛散防止のため、とろみ(粘度)を強めに設定しました。後述の元宇宙飛行士の野口聡一さんが宇宙でカレーを食べている様子を見ると、白米についたカレーがぷるぷるしていて、粘度の高さがわかります。

「味を均一にするのも大変でした。原材料は農産物です。当然、具材の大きさや味にバラつきが出ます。それをいかにそろえていくかも難しかった。大学の先生、宇宙飛行士、JAXAの職員の方に何度もヒアリングをし、試食会も行い、味の配合を決定するのに数年かかりました。宇宙食のために特別な配合を考えたのはハウス食品グループが初めてになりました」(小笠原)

宇宙でもカレーを食べて健康を維持

右端の銀色の商品は市販された当初の「SPACE CURRY」。現在はパッケージが青に変わり、銀色のものは発売されていない
右端の銀色の商品は市販された当初の「SPACE CURRY」。現在はパッケージが青に変わり、銀色のものは発売されていない

味と同様に大切になってくるのが栄養です。宇宙環境に身を置くと、当然体調も変化します。
よく知られているのが無重力による骨量の減少や筋肉の退化。味覚と嗅覚が鈍くなることもそうで、循環器機能の変化、体液分布も変化します。さらに宇宙放射線を浴びると細胞がダメージを受けます。それほど宇宙は過酷で、ストレスフルな環境なのです。

「宇宙飛行士の方の健康維持のために、ウコンの量を地上と比べ倍くらいに増やしました。 さらに、効率よくカルシウムを摂取できるように、ビタミンD、イソフラボンを多めに配合しています」(小笠原)

各素材と栄養成分の嫌な風味を感じさせないようにするために材料にもこだわっています。ウコンは特有の土の匂いが少ない産地のものを選び、カルシウムは苦味の少ないミルクカルシウムとしました。

パウチにも細心の注意を払う

パウチの裏にはベルコインが貼られ、宇宙で食べやすいように台などに貼り付ける仕組み。ベルコインの位置や大きさもJAXAから指定される
パウチの裏にはベルコインが貼られ、宇宙で食べやすいように台などに貼り付ける仕組み。ベルコインの位置や大きさもJAXAから指定される

できあがった宇宙専用カレーを入れる袋(パウチ)も専用のものを準備しました。通常、市販品に使う銀色のパウチは3〜4層構造になります。対して宇宙用は7層構造です。それを厳しい耐圧試験や落下試験を行って強度を確かめます。さらに出荷時には拡大鏡でパウチの表面を見て、アルミに割れがないかを1つ1つチェックします。

1パウチあたりの内容量は、以前は200gでしたが今は140gに変更になりました。もっと食べたいという声もあったようなのですが、宇宙飛行士は摂取カロリーなども制限があるため量を減らすことになりました。なおこのときに減塩してミネラル量を40%減らしていますが、味は変わっていません。塩が足りないと体力に影響するといわれますが、とりすぎもまた問題なのです。

提供を始めた当時、出荷のときには手袋をして、パウチの周りを一周触り、何か引っ掛かりがないかを1つずつ確認しました。もし宇宙飛行士の方がケガをしたら大変だと小笠原さんらは細心の注意を怠りませんでした。

「運送業者の方に、宇宙に持っていくのだから丁寧に運んでくださいとお伝えしたものですよ。業者の方は『宇宙ですか?』とキョトンとしていたものです(笑)。それでもJAXAに商品が到着したときに、箱の中でパウチが少々荷崩れしていると連絡があって、JAXAまで足を運んで確認しました。当時はそれほど運搬条件が厳しかった。苦労のかいもあって、2022年にはJAXAから感謝状が届きました」(小笠原)

JAXAから届いた感謝状と宇宙日本食認証書
JAXAから届いた感謝状と宇宙日本食認証書

宇宙ステーションで大人気に。そして宇宙日本食の「SPACE CURRY」は地上で一般発売へ

リリースは開発スタートから6年が経った2007年です。翌2008年2月に宇宙に運ばれ、実際に日本人宇宙飛行士が食べました。ISSに滞在中の外国人クルーからも高評価で、「絶対にカレーを持ってきてほしい」と言われるほどでした。

「当初作ったのはポーク、ビーフ、チキンの3種類です。宇宙飛行士の間では自分の食べたい料理を指定できるボーナス食という仕組みがあるのですが、野口さんがISSに長期滞在すると決まった際に、フランス料理店シェ・イノ 総料理長・古賀純二シェフ監修の「イベリコ豚とマッシュルームのカレー」を試食していただき、ぜひ宇宙で食べたいと仰ったんです。それでのちにイベリコ豚もめでたく宇宙日本食に認定されました」(小笠原)

野口さんは宇宙で実際にこのカレーを食べている様子を配信しています。ポークとビーフの食べ比べという内容で、実際に動画の最後でどちらが好みかの判定を下しています。宇宙ではどのようにカレーを食べるのかがわかって興味深い内容です。無重力状態ではご飯の上にカレーをかける食べ方ができません。白いご飯をパックからスプーンで取り出し、それをカレーのパウチに差し入れて、粘度の高いカレーをまとわせて、口へと運びます。

野口聡一さんYouTube「カレー対決!」はこちらから

「SPACE CURRY」(左)と「イベリコ豚とマッシュルームのカレー」(右)
「SPACE CURRY」(左)と「イベリコ豚とマッシュルームのカレー」(右)

宇宙飛行士が実際に食べている宇宙日本食のカレーのうち、「SPACE CURRY」ビーフと、「カレーマルシェスペシャリテ」イベリコ豚の2種類の味が市販(※「SPACE CURRY」は一部科学館など、専門店でのみの発売)されています。宇宙との違いはパウチの強度だけで中身は一緒。夜空を眺めながら食べてみてはいかがでしょうか。

<市販品の情報はこちらからチェック!>


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