最近、子どもだけで食事をする家庭が増えています。ライフスタイルの変化で親も子どもも忙しく、家族そろって食卓を囲む「団らん」が減りつつあるのです。子どもの食環境において問題とされるさまざまな「こ食」。その種類、問題点とその解決法について、紹介します。
目次
「こ食」という言葉をご存じでしょうか? 現代の家庭の食事風景の特徴を表したものですが、厚生労働省によると、特に子どもの食環境においては7つの「こ食」が問題とされています。※1
孤食…家族と一緒に暮らしているのに一人で食事をとる
個食…家族で食卓を囲んでいても食べているものがそれぞれ違う
子食…子どもだけで食事をとる
小食…ダイエットなどのために必要以上に食事量を制限する
固食…同じものばかり食べる
濃食…濃い味付けのものばかり食べる
粉食…パン、麺類など粉から作られたものばかり食べる
なかでも、「子食で孤食」つまり、家族がいながら子どもだけで食事をすることが増えていますが、この背景には、核家族化が進み、家庭内で子どもに関わる大人が減ったことがあると考えられています。また親は仕事、子どもは塾や習い事で忙しく、「とにかく効率良く空腹を満たすこと」が優先されるようになったこともあるでしょう。
食事というのは、ただお腹がいっぱいになればよいというものではありません。これらのさまざまな「こ食」は、栄養バランスが偏ってしまう、食事のマナーや食文化が身につかないと言われています。実は、こうした現象はアメリカでも問題になっていて、さまざまな調査が行われています。
例えば、家族そろって食事をする家庭の子どものほうがそうでない子どもよりも学業の成績が良いことがある※2。また、家族で食卓を囲む家庭では食材の種類も豊富でよりバランスのとれた栄養成分を摂取でき、その食習慣は大人になっても続きやすいと言われています。さらに、若者の問題行動が減り、将来に対してよりポジティブな見方をするといった調査結果もあるようです。※3
※1 出典:「保育所における食事の提供ガイドライン」厚生労働省
※2 出典:「US National Library of Medicine National Institutes of Health「Mealtime talk that supports literacy development.」
※3 出典:US National Library of Medicine National Institutes of Health「Family dinner and diet quality among older children and adolescents.」
もちろん、各家庭にはいろいろな事情があります。子どものすこやかな発達のために家族が一緒に食事をとることが大切だとわかってはいるものの、今日から毎食、家族がそろって一緒に食事をするのは難しいという家庭も多いでしょう。
そこで、忙しい家族でもみんなで食卓を囲む機会を増やす工夫をいくつかご紹介しましょう。
夜は突発的な予定が入りやすく、調整が難しいもの。少し早起きして朝ごはんをゆっくり楽しみましょう
毎週何曜日と決めてスケジュールに組み込んでしまえば、家族みんなが調整しやすくなります
平日はどうしても難しいなら、土日のどちらかは家族みんなで食事をすると決めましょう
「イチから手作り」にこだわらずテイクアウトや半調理品など活用することで、食事を楽しむ時間が確保しやすくなります
料理や後片付けを家族みんなで分担し、その時間も食育やコミュニケーションの時間に利用しましょう
また、子どもがいる家庭ならではの、とっておきのアイデアがあります。それは、「家族のお祝いごと」をたくさんつくることです。例えば、どんなに忙しくても誰かの誕生日となれば、家族それぞれがスケジュールをやりくりしてお祝いの食卓を囲むという家庭は多いもの。
同じように、「ちょっとうれしい出来事」を家族みんなでお祝いしてみましょう。自転車に乗れるようになった、逆上がりができた、九九の〇の段が言えるようになった……本当に小さなことでよいのです。毎回ごちそうを作ったりしなくても、子どもの好きなメニューを一品用意して、「今日は一緒に食べる日」という雰囲気を演出しましょう。もちろんパパやママのお祝いごとの日をつくるのもよいでしょう。
また、理想としては家族そろって楽しく食卓を囲む「団らん」をつくることですが、一方で常に明るく会話が盛り上がらなければダメというわけでもありません。「団らん」の形は時代とともに変わるものだからです。
ホームドラマやアニメで出てくるような、家族でテーブルやちゃぶ台を囲んで和やかに会話を楽しむ「団らん」の風景は、なんとなく日本の伝統のように思われているものの、実際は近年の「団らん」の形。
それ以前は(地域や身分にもよりますが)、食事中は静かに食べることが行儀が良いとされてきました。さらにその前は箱膳という脚付きのお盆に一人前ずつ食事がセットされ、家族一緒に同じ場で食事はしているものの、基本的に子どもが自由に話すことは許されていませんでした。
だからといって、当時の日本人がみんな心身に大きな問題を抱えていたかというと決してそうではないわけです。「こ食」を当たり前にしないことは重要ですが、自分たちの生まれ育った時代に「団らん」の形をあわせなくてはと、必要以上に気負いすぎなくてもよいかもしれません。
新たな「団らん」の形として、コミュニティを頼るのも方法の一つです。
例えば、仲の良い家族と一緒に食事する機会を設けたり、持ち回りで食事どきに子どもを預かったりするのはどうでしょう?アメリカでは、小学生くらいになるとSleepover(スリープオーバー)といって、仲良くなった友達のうちにお泊まりに行くことがよくあります。他の家族の団らんに加わるのは子どもにとても重要な経験ですし、お互いの家事・育児の助け合いにもなります。
また、家庭の事情により預けるのが難しい場合は「こども食堂」のような地域のコミュニティを利用するのもよいでしょう。
かつては『低収入の家庭の子どもたちに食事を提供する場所』というイメージだったこども食堂も、最近は地域のコミュニティを支えるインフラとしての役割が増していきます。
街のレストランと違って子ども連れでも気兼ねなく利用できるうえ、多様な世代の子どもと一緒に食事をする経験はとても貴重です。子どもは、良くも悪くも周りの雰囲気に影響されてしまうもの。普段は小食の子どもも、ちょっと年長の子がモリモリ食べている様子を見ているうちになんとなく食が進むなんてこともあるでしょう。
年少の子どもへのちょっとした対抗心から好き嫌いを克服できたり、他の大人に褒められたいという気持ちが正しいマナーを身につけることにつながるかもしれません。
また、こども食堂は、親にとってもほっとできる場所になるはずです。核家族での子育てはプレッシャーを感じることも多いでしょうが、助けが必要な時に頼れる場所や人が複数あれば、その負担はうんと減ります。こども食堂で生まれる人間関係は、幼稚園や学校のママ友とは別のつながり、まさに一昔前の地域のお祭りのように食を通して育まれた仲間というわけです。
こうしたつながりをつくり、頼ったり頼られたりしながら地域みんなで子育てをする。食を通じて、そんな関係ができれば、さまざまな「こ食」の解消に一歩近付くのではないでしょうか。
長岡 真意子さん
大学講師から幼児教室主宰まで、幅広い年齢と文化背景を持つ乳幼児から青年までの育ちを20年間指導。国内外1000以上の文献に基づく子育てコラムの執筆多数。プライベートでは、ハイリーギフテッド認定を受けた個性はじける2男3女を育てる。
循環型モデルの構築、そして健康長寿社会の実現に向けて取り組みを行っています。
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