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「誰も取りこぼさない、豊かで優しい地域社会」を再生する「むすびえ」が描く未来

「誰も取りこぼさない、豊かで優しい地域社会」を再生する「むすびえ」が描く未来

近年、子ども支援活動の一環として行われている「こども食堂」をご存じですか。「こども食堂」とは、地域住民などによる民間発の取り組みとして、無料または安価で栄養のある食事や温かな団らんを提供する場のことです。今回は、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長として活動されている湯浅誠さんに、その活動の内容や理想の社会について伺いました。

湯浅 誠さん

1990年代より日本の貧困問題に携わる社会活動家で、2009年からは足掛け3年間にわたり内閣府参与として就任。現在は東京大学先端科学技術研究センター特任教授の他、NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長としても活動している。

自転車に乗った子連れのお母さんたちが「今日、寄ってく?」と誘い合う

「いま、こども食堂は全国で5000カ所になりました。社会が新型コロナウイルス感染拡大の影響下にあるいま、それでも2020年末の調査ではこども食堂の数が2019年から1200カ所増え、2020年2月以降のコロナ禍にかぎっても約200カ所増えたのです」と、湯浅さんは穏やかで明快な口調で、お話を始めてくださいました。

「それは、コロナ禍によって起こるさまざまな問題によって、大人ばかりでなく子どもたちや地域社会全体が深刻な被害を受けているのを、自分ごととしてひしひしと感じているからではないでしょうか。全国の人たちが、人々を孤立させるまい、居場所を失わせるまいと、必死でつながりつづけようとしているのです。

そしてこども食堂の8割に当たる4000カ所ほどは、おそらく皆さんが名前から想像している『貧困の子どもたちを集めて食事をさせる特別な場所』という姿とは、全く別のものです」

自転車に乗った子連れのお母さんたちが「今日、寄ってく?」と誘い合う

例えば調布市富士見町にあるこども食堂は、覚證寺(かくしょうじ)というお寺が運営しているのだそう。月におよそ2回、子ども(原則、高校生世代まで)とその保護者に向けて開かれており、子どもは100円、大人は300円という食事代で先着100食が提供されます。

近隣の保育園のお迎え時間になると、自転車に子どもを乗せながら、お母さんたちが「今日寄ってく?」と誘い合って子連れで自由にご飯を食べにくるのだとか。そこに地域の高齢者も参加し、共に食事をする時間を通して多世代が集う、地域のコミュニケーションの場として機能しています。

「行ってみたらきっと皆さんわかるんですよ。そこで食事をしている人たちは、まったく申し訳なさそうになどしていない。にぎにぎワイワイ、心を許し合って相談したり宿題をしたり、楽しく多世代交流している。昔の地域の子ども会のようなものです。

聞いたことはあるけれど行ったことのない場所って、誰しも悪気もないけれど誤解も含めてイメージを思い描いてしまうもの。でも、現場に近い人から徐々に本当の姿を知る人が増えていって、『実態は貧困の子どもを集めている食堂じゃないらしいよ。気軽に行ってみよう』ということが地域に浸透していくんです。その速度が、最近どんどん上がっている気がしています」(湯浅さん)

そこに集う誰もにメリットがある、多世代交流の場

そこに集う誰もにメリットがある、多世代交流の場

全国各地でこども食堂を始める人たちには、子どもを持つ30代女性が多いのだとか。きっかけは、自分たちの子ども時代には当たり前だった大きな机にみんなが集まって大人数で食事をする機会が、失われつつあることへの危機感。

昔は友達の家に遊びに行ったついでに夕ご飯も食べさせてもらうような大らかな体験ができたものですが、今では「そんなことして、食中毒とか何かあったらどうする、誰が責任を取るんだ」などと言われてしまう。そんな状況になってしまっていることにショックを受けたお母さんたちが、子どもたちのためにも地域社会を取り戻そうと、みんなで食事をする場を創り始めたのです。

こども食堂のように、地域における身近な人々との多世代交流が誰もにとって大切な理由を、湯浅さんはこう話します。

「子どもにとっては、親が社会のすべてになりやすいですよね。でも違うタイプの大人と関わることで人を怖がらなくなり、自分の家以外の環境を知ってさまざまなことに気づきます。社会性もコミュニケーション能力も非認知能力も、大きく育つんです。地域は広い意味の大事な教育機関でもあるんですよ。教育って、教科以外の非教科学習も大切で、そのプロは先生だけじゃない。

私は兄が障がい者で、大学生のボランティアが頻繁に出入りする家だったんですが、たくさんのことを彼らから学びました。自分よりちょっと年上の新しい生き物のような彼らに出会って、私の人生、とっても得したと思っているんです」

そこに集う誰もにメリットがある、多世代交流の場

「お母さんたちにとっては、こども食堂が一時休息のための貴重な時間。むしろ帰りたがらないのは子どもたちよりお母さんたちのほうです。日頃子どもの対応に追われて、自分は5分で食事をかきこむようなお母さんも、ここでは誰かが子どもを抱っこしてくれてゆっくり食事ができる。子どもが何かこぼしても誰も文句言わないし、安心しておしゃべりできるんですよ。

高齢者にとっては、子どもと関わることで役割や生きがい、出番を感じられる重要な場所。おじいちゃんたちって自分のために動くのがとても難しい人たちなんだけれど、『子どもたちのためだから』なんて言い訳があると『しょうがねえな』と言いながら動けちゃう。

でも一方で気づくんです。30〜50代の働くお父さんたちが、やっぱりこども食堂には少ない。地域や生活から遠いところにいる彼らをどう連れてくるかが、課題ですね」(以上、湯浅さん)

関わりたいという企業の申し出と、こども食堂のニーズをつなげた「通訳者」

NPO法人 全国こども食堂支援センター むすびえ

2018年12月に設立された「むすびえ」は、こども食堂のために何かしたいという企業の申し出とこども食堂側のニーズをつなげる団体です。その役割とは、誰も取りこぼさない社会をつくるという理念のもと、こども食堂の支援を通じてより多くの人が未来を作る作業に参加できるよう、社会全体に向けて働きかけること。

関わりたいという企業の申し出と、こども食堂のニーズをつなげた「通訳者」

「企業とこども食堂って、見ている世界も感じかたも違う。企業側はまず提供した商品の転売リスクや事故が起きた時の責任の所在を考えますが、こども食堂の人は”みんなで楽しく”ということをいちばん大事にしていて、リスク管理は後。お互いが何を気にしているかが全く違うので、私たちはそこの交通整理をして双方のすり合わせをする通訳者のようなものです」(湯浅さん)

「子どもと食事」というテーマには誰もが関心を寄せやすくもありますが、湯浅さんによれば、企業がこども食堂に関わると大きく2つの貢献があるそうです。

「一つは、こども食堂は一回の予算が2、3万円という規模で運営されていますから、企業による食品提供などは大助かり。いろんな人を巻き込んでいくのがこども食堂の良さでもあります。

もう一つ大きな役割は、信用や安心感の醸成です。2012年に初めてこども食堂が登場した時、世間の反応は『大丈夫なのか? 何かあったら誰が責任取るんだ?』というものでした。みんなが知っている会社がこども食堂に関わって応援していることで、今や『ちゃんとした安心できるところなんだな、関わっていいんだな』と判断できるんです」(湯浅さん)

ハウス食品グループ「えがお便」で「社会に役立つことができた」と社員も実感

ハウス食品グループ「えがお便」で「社会に役立つことができた」と社員も実感

これまで、食育機会の創出やフードロス削減などさまざまな社会課題に取り組んできたハウス食品グループ。高齢者の孤食や、貧困の子どもの割合増加などの解決につながるこども食堂には以前から着目していました。世代を問わず愛される「カレー」と、地域の誰もが集える場所である「こども食堂」との親和性は抜群。

2020年10月からハウス食品グループは、「えがお便」を通してこども食堂を支援する活動をスタートしています。「えがお便」とは、社員にも身近に社会課題に触れてもらうために、サポーター社員を募集し、ハウス食品のバーモントカレーとハウスウェルネスフーズのサプリ米、季節のカレーレシピ、こども食堂に宛てた直筆の手紙を一緒に梱包し送る、といった取り組みです。

ハウス食品グループ えがお便

コロナ禍では、料理をつくらずに食品を配るだけというこども食堂も多いため、調理を前提とした製品量よりも多く製品を送付し、手紙の代わりに社員の寄せ書きをオンラインで送るなど、柔軟に実施方法を探りながら着実に活動の輪を広げています。

結果として子どもたちやこども食堂を運営する方々から寄せられたお返事には、感謝の言葉やカレーを楽しむ笑顔の写真がたくさん。社員は心を動かされ、寄り添った支援や連携の大切さ、そしてこども食堂を運営する方々の熱い想いや、カレーを楽しんでくれた子どもたちとの心のつながりを噛み締めています。

ハウス食品グループ「えがお便」で「社会に役立つことができた」と社員も実感

こども食堂を小学校と同じくらい「町で当たり前に見かけるもの」に

こども食堂を小学校と同じくらい「町で当たり前に見かけるもの」に

湯浅さんに理想の未来のイメージを伺ってみました。すると、「こども食堂がごく普通のものになった社会がいいですね。公民館みたいな何百人規模のものがあってもいいし、個人の民家でおばあちゃんが地域に開く月一回の食堂があってもいい。コンビニや牛丼屋さんが臨時こども食堂を名乗ってもいいし、スーパーや八百屋さんが食材を提供するのもいい」と、とっても楽しそうで、優しい賑わいのある世界を描いてくださいました。

「こども食堂が最低でも一つの小学校区に一つはある状態、つまり2万カ所が目標です。小学校区って、子どもの頃はなかなか超えられない生活圏で、それは高齢者も同じだからです。そして、小学校の通学見守りのように、過度に感心も反発もされないものになる、それが社会インフラ化するということなのです。

故郷に帰省できない人も、高齢の親が地域とちゃんとつながっていれば安心できる。安心充実して暮らせる地域社会がこれから大事になっていくという認識が、コロナ禍のみんなの共通事項でもあると思います」と最後に湯浅さんは話してくださいました。

「人が多く集まる場所」ができたことで、地域住民のコミュニケーションの場としても機能している「こども食堂」。ボランティアに行くといった気負うようなものではなく、もっと気軽に利用やお手伝いをしてみてもいいのではないかと思えるお話でした。


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循環型モデルの構築、そして健康長寿社会の実現に向けて取り組みを行っています。

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