House E-mag

ハウス食品グループがお届けする 健康とおいしさを応援するマガジン

最期まで食べ続けられる人生のために——ハウス食品グループが試みる、支え合う「地域の食卓」づくり

最期まで食べ続けられる人生のために——ハウス食品グループが試みる、支え合う「地域の食卓」づくり

過去の記事「介護アドバイザーが教える高齢者のための食生活の備えとは?」「ハウス食品らしい『家庭の味』DNAで『介護食』の枠を超える」でもご紹介したように、超高齢社会(※)の中で「最期まで口から食べ続ける」ことが重視され、そのために何ができるかが考えられています。

そんな中、ハウス食品グループでは急速な高齢人口の増加に備えて独自の試みが続けられています。具体的にどんなことが行われているのでしょうか?
All About「食と健康」ガイド・南恵子さんと一緒に、ハウス食品グループ本社株式会社 新規事業開発部 「高齢社会エキスパート」酒井可奈子チームマネージャー(※取材当時)に話を聞きました。

※高齢化の進行具合を表す、「高齢化社会」「高齢社会」「超高齢社会」という言葉があります。65歳以上の人口が全人口に対して7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」と呼ばれます。日本は1970年に「高齢化社会」に突入し、1994年に「高齢社会」、2007年に「超高齢社会」へと突入しています。

「2024年 高齢者率30%時代」に備え、必要となること

ハウス食品グループ本社株式会社 新規事業開発部 酒井可奈子さん
ハウス食品グループ本社株式会社 新規事業開発部 酒井可奈子さん

——2024年には国民の3人に一人が65歳以上になり、地方で先行していた高齢化率の上昇が都市部でも急速に進むと予想されます。2040年には、現在40代半ばのいわゆる団塊ジュニアが65歳超となり高齢者人口が約4000万人のピークに達すると推計されています。そんな中で、自分の力で最期まで食べ続けられる人生のために、どんなことが必要になるのでしょうか。

南恵子さん(以下、南):健康寿命を延ばすために食事が大切ということはわかっていても、一人暮らしの高齢者の食生活は孤食や栄養の偏り、不規則な食事時間など、悪化していると言われています。また、孤食の高齢者はうつになりやすいという調査もあり、誰かと一緒に食事をする共食、そして自身で栄養バランスなどを考えるための食知識がポイントになってきます。

私は以前、地域の大学の食育振興に携わっていました。栄養バランスをお弁当の形にして提案し、幼稚園やお年寄り向けにお話をして回っていたのですが、残念なことに年に1回の講演では伝えきれないことの方が多いです。ずっとその人にお付き合いしていかないと、見えてこないことがありますね。

酒井可奈子さん(以下、酒井):おっしゃる通り、少子高齢化で日本の食卓の姿が変わってきています。特に2025年頃まで見据えると、生産人口や生活者の経済力が減少する中で、税金や公に頼らずに、地域ぐるみで食や生活に必要な機能をケアするシステムをどのようにつくっていくかが、社会全体での課題となってきます。
そういった未来に向けて、ハウス食品グループの新規事業として「個人が、地域の中で安心して幸せに食べ続けていける場」をつくることにチャレンジしています。

南:それはどのようなことをされているのですか?

酒井:健康寿命を全うするために、皆さんに「食(しょく)」をもっと理解していただくための場として、公民館や介護予防サロンなどを訪問し、中高年から高齢の方々に向けた栄養・料理講座を開催しています。いわゆる高齢者向けの虚弱(フレイル)予防だけに特化せず、中高年期からの生活習慣病の予防から高齢期の服薬と並行した食生活や、在宅で虚弱予防を一体的に考えられる「大人の食育」がテーマです。
また、長期的には互助的な集いの場でのリーダーや調理指導などの担い手も育てて、「職(しょく)」によって地域で食べ続ける経済的自立も果たしていただけたら、との思いで、「しょく(食・職)場づくり」と名付けた事業を進めています。

南:食べる「しょく」と仕事の「しょく」をかけた「しょく場づくり」とは、とても素敵な響きですね。

「おいしい食の集まり」は、何歳になっても笑顔になる

「おいしい食の集まり」は、何歳になっても笑顔になる

酒井:こちらの写真で紹介している八千代市公民館の料理講座は、もう4年目。簡単に家でおいしい焼きたてパンを食べられる「おうちパン作り」や、5種のスパイスでつくる「手作りカレーセミナー」、塩を全く入れずに素材の味を引き出す「塩抜き料理講座」など、高齢者向けに限らないテーマで、老若男女の方々が交流する場になっています。年間50回、毎回10名以上の方々にお越しいただいています。

南:実際の事例を拝見していると、高齢者向け介護予防サロンの栄養・料理講座で、高齢女性が立ち上がってお鍋の中を混ぜていらっしゃる、積極的な気持ちがうかがえるとてもいいお写真がありますね。

酒井:こちらの女性は1回目の講座では終始座ったままだったのですが、2カ月後の第2回講座では、調理に意欲が出始め、脚が悪いためにつかまりながら調理に参加されました。さらにその2ヶ月後の回では、同じ方が初めからエプロン着用で参加して、お友達とお話をしながら料理をしていらっしゃる姿も見られます。

南:お子さんが独立して、夫婦二人住まいになったり、一人暮らしになったりする中で、高齢者は次第に調理の意欲を失い台所から離れていってしまうものです。でも、この講座で調理に意欲が出て、立ち上がり、背筋も伸びていくのがわかりますね。調理をすることが脳機能を活性化するという研究報告もありましたが、それを実感できる例と言えます。

酒井:それまでは「虚弱」とされて立てなかった高齢者の方が新しい健康情報や栄養情報の話を聞き、主婦として毎日家族にごはんをつくっていた頃の意欲を取り戻していかれるのを見ると、「習う」から「実行する」へと行動変容を起こすことができた、と手応えを感じますね。参加者さんとの「会話」から、その方の意欲に響くヒントをみつけて、次の講座案に反映して、ご提案します。先ほど南さんがおっしゃられたように、お一人に「お付き合い」することが重要と感じています。

南:皆さんとてもいい笑顔をされています。誰かのためにつくってあげたいという思いで、高齢者の行動が変わるのですね。
それに、食べることは笑顔を生みますよね。みんなで食卓を囲んで笑顔で食べるというのは、脳の活性化にもとてもいいことです。

酒井:ハウス食品グループがお客さまにご提供してきたものは食卓であり、「ともに食べる価値」です。家族や地域で、みんな揃って一つの鍋で「おいしい」と言い合える、そんな誰も取り残さない社会をつくっていく必要があると考えています。

「ともに食べる暮らしの場」だからこそできるオープンなイノベーション

All About「食と健康」ガイド 南恵子さん
All About「食と健康」ガイド 南恵子さん

酒井:集うことの楽しさをメリットにしているのが、「しょく場づくり」のもう一本の軸である「リビングラボ」と呼ばれる産官学ネットワークと組んだ生活者の声を活かした開発の場です。例えば、高齢者向けの商品を企業の30-40代の人がデータ分析をもとに開発するのではなく、実際に高齢者の生活の現場に赴いて、日ごろの暮らしについて語っていただく会話から開発コンセプトのヒントを得る、というオープンイノベーション(※自社だけではなく異なる業種や分野の技術やアイデアなどを組み合わせ、新たな価値を生み出し社会に変化をもたらす方法)の場です。

南:様々な経験をされてきた「人生の先輩」である高齢者が、ご自分の意見を企業や社会へ直接伝えることができるというのは、きっと尊重されているとお感じになるでしょうね。高齢者が生活の中で社会と接点を持つことは、精神的にも大切なことです。

酒井:日頃、高齢者と生活を共有していない企業人が、地域コミュニティに入って高齢者と交流したり意見交換ができる機会は貴重です。また、企業だけではなく大学や自治体など様々な団体が一緒に生活者の中へ入っていくことで、自前の資源や設計パターンだけに偏ることなく協力して、新しい商品やサービスの開発ができるのは、画期的なことです。

南:企業や業界の縦割りでなく、ということですね。高齢者の中には、なかなか自分の要望を言い出しにくい方も多いかと思いますが、信頼できる「場」「人」がそこにあるから、率直な意見が出せるんでしょうね。

酒井:高齢者の皆さんとの会話の中から、私たちが勉強させていただくことはたくさんあります。
例えば料理講座ではおいしく食べてもらうために減塩の調理法提案だけでなく、味覚感度を高めるために亜鉛などのミネラルも食事から摂ることを提案しています。そこで「あさりのクラムチャウダーをつくりましょう」となった時、「貝殻のゴミが出るから貝はいやだ」と言う方がいらっしゃる。それって単にゴミを出したくない、ということではなく、実は高齢になると体が辛くてゴミを出すことが簡単にできなくなる方もいらっしゃるのです。そのため、ゴミ出し支援を受けることでお金がかかったりもする。
一部の高齢者が自宅にゴミを溜め込んでいるのを「高齢者は視野が狭いから見えていないんだろう」とか「面倒くさいんだろう」などと判断するのは早計で、ゴミを出せない事情があったりもするのです。課題解決の糸口はこのような気づきをいただける会話の中にあると感じています。クラムチャウダーの例では、貝殻なしの冷凍品や缶詰が売られていることをご存知ない(あるいはおいしいと思われていない)方が多くいることがわかりましたが、このように生活を便利にする新しい商品が、本当に使っていただきたい方に認識されていない事例も多く、後期高齢者の方の生活に寄り添った購買接点や認知経路の在り方を考えるきっかけになります。

ハウスの100年の歩みを、これからの100年にも活かしたい

ハウスの100年の歩みを、これからの100年にも活かしたい

酒井:現在「しょく(食・職)場づくり事業」の現場は、千葉県八千代市の社会福祉協議会や、埼玉県志木市、東京都日野市と連携させていただき、自治体公民館での「しょく場づくり講座」を通じて、地域に食べる場と担い手を増やしています。プログラムは、ジェロントロジー(老年学・高齢学)をベースにマーケティングの視点を加えて開発しています。その事例を、日本総合研究所 創発戦略センターや、東京大学 高齢社会総合研究機構(IOG)、日本老年学的評価研究(JAGES)などで発表させていただいています。今年はさらに多くの企業や自治体と連携して、高齢社会に資する「リビングラボ」を発展させていきたいです。

南:やはりいま最も皆さんの関心が高い研究の現場という感じがしますね。社会に対する影響力も大きく、インフラをごろっと変えられるくらいのスケールを感じます。

まだ老後は想像できない世代の人たちにも、老いは必ずやってきます。今回は一人ひとりの方のライフステージを見守り寄り添って、企業・研究機関・自治体が連携して社会問題の解決を丁寧になさっているという「しょく場づくり」の取り組みから、食と健康に関して良い示唆をいただきました。今後誰もが最期まで安心して暮らせる社会づくりという皆さんの試みが、必ず実ると念じております。たくさんの企業さんが連携されるといいですね。

酒井:ハウス食品グループは、大正デモクラシーの時代から日本の家庭料理とともに歩んで、創業106年になります。ハウス食品グループがこれまで100年やってきたように、これからの人生100年時代、令和元年生まれの子が100歳になった時にも必要とされる社会の仕組みをつくりたいとの思いで、事業開発に取り組んでいきます。

酒井可奈子

ハウス食品グループ本社株式会社 新規事業開発部 チームマネージャー 経営管理学修士(MBA)、高齢社会エキスパート。 出産と育児経験を機に「地域と育児の課題を食で解決したい」との志を抱き、2010年、ハウス食品(株)に入社。お客様生活研究センター(当時)、食品事業部を経て、2017年より現職。 ※2020年取材当時

南恵子さん

All About「食と健康」ガイド。NR・サプリメントアドバイザー、フードコーディネーター、エコ・クッキングナビゲーター、日本茶インストラクターなどの資格取得。現在、食と健康アドバイザーとして、健康と社会に配慮した食生活の提案、レシピ提供、執筆、講演等を中心に活動。毎日の健康管理に欠かせない食に関する豊富な情報を発信しています。


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循環型モデルの構築、そして健康長寿社会の実現に向けて取り組みを行っています。

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